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2008年度魚類学会公開シンポジウムのお知らせ  
市民公開講座 「人と田んぼと魚たち」--農と自然の共生
日本魚類学会主催
後援:福岡県・久留米市・朝日新聞久留米支局

日時: 平成20年7月19日(土)13時~17時
場所: 田主丸町複合文化施設そよ風ホール
福岡県久留米市田主丸町田主丸770-1
入場: 無料
対象: 中・高校生以上
シンポジウムの目的と概要
 人が稲作を開始した古来より水田は魚類だけでなく、植物や鳥類、昆虫など多くの湿地性生物の生息場所であり、人と自然の協調の場でもありました。近年、圃場整備に伴い、農業様式が大きく変化し、人と水田の関係にかげりが見えています。水路や水田への水の導入が自在に行えるようになり、市場の需要や用途に応じて水田を乾田化することも可能になりました。しかし、それに伴い、生息場所を失ったり、生活史を完結できなくなった淡水魚も多く出現しています。水田と水路間や河川と水路間の移動阻害、水路の護岸化に伴う生息場所や産卵環境の悪化や喪失、栄養塩、プランクトン類の不足等、様々な問題が生じているのです。魚類では、シンポジウム開催予定地の田主丸町でも問題になっているヒナモロコをはじめとして、アユモドキ、ミヤコタナゴ、スジシマドジョウ種群、メダカなどの水田生態系のシンボルフィッシュが環境省版のレッドデータブックで絶滅危惧種に軒並み挙げられており、問題の重大さがうかがえます。
 現在、日本で唯一のヒナモロコの生息地である福岡県久留米市の水路に圃場整備が計画され、本種をめぐる問題が顕在化してきました。このため日本魚類学会は関係行政機関に対して、圃場整備見直しや保護施策実施の要請を行いました。その結果、問題を検討するためのヒナモロコ協議会が設置され、圃場整備は進めるが、影響を極力少なくして生息が確認されている水路の一部をそのまま残すことが提案されています。このように水田周辺で絶滅危惧に陥っている魚類には行政、地域の農業従事者による理解と保全策への協力が不可欠です。
 このシンポジウムでは水田周辺の魚類がいかに生存を脅かされているかを明らかにします。そして、水田周辺の絶滅危惧種を守る意義について魚類学的視点からだけでなく、実際に農業を行っている者の立場からも論じ、水田生態系の価値とそれを保全する意義について普及、啓発を行います。水田周辺の生物多様性を維持することは私たち人を救うことにもつながることを考える機会とし、このシンポジウムを通じて地元住民、行政、研究者が共同した希少種を中心とした生物多様性保護ネットワークを構築する契機にしたいと考えています。
 講演の部では水田周辺の生物多様性を維持する意義と必要について、水田を利用している魚類の実例としてシンポジウム開催予定地の田主丸町にのみ生息地するヒナモロコと、岡山県のアユモドキなど水田周辺の生物と農業の共生について4題の講演を行います。  パネルディスカッションでは、水田とそれを利用する魚類の共存を図る「ゆりかご米」の事例を社会学的立場から、また、希少種のシナイモツゴを地域住民で組織的に保護している事例を話題提供していただき、農業と水田周辺魚類の共存はいかにしてなされるのか、また共存の意義についても論じ合う予定です。
講演
1) 絶滅危惧種を守ることに意味はあるか 渡辺 勝敏(京都大学大学院)
2) 水田を利用する魚たち  
  ・ヒナモロコはいかに水田を利用するか
・水田を保護地にする
小早川 みどり(九州大学)
青 雅一(岡山淡水魚研究会)
3) 自然の生き物も農の恵み 宇根 豊(NPO法人「農と自然の研究所」)
パネルディスカッション
「水田を利用する魚たちとの共存は可能か」
・司会  細谷 和海(近畿大学)
・話題提供
1) ゆりかご米 牧野 厚史(滋賀県立琵琶湖博物館)
2) 市民を中心とした稀少魚保護の体制づくり
高橋 清孝(シナイモツゴ郷の会)
・パネリスト
   牧野 厚史(滋賀県立琵琶湖博物館)
   高橋 清孝(シナイモツゴ郷の会)
   田中 一雄(福岡朝倉農林事務所)
   宇根 豊(NPO法人「農と自然の研究所」)
   青 雅一(岡山淡水魚研究会)
   大石 敏(ヒナモロコ里親会)
   鬼倉 徳雄(九州大学)
(平成20年度科学研究費補助金研究成果公開促進費補助事業)
●ポスターはこちらから