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「平成29年度 公共事業評価調書 京都スタジアム(仮称)整備事業」への意見  
平成29年5月31日
日本魚類学会
会長 桑村 哲生
   日本魚類学会は、京都スタジアム(仮称)の建設計画に対して、平成25年3月以降、数回にわたり、魚類学の専門的見地から、アユモドキを含む貴重な湿地生態系への深刻な影響に関する問題点について京都府知事等に意見を申し上げ、計画の修正・再検討、および開かれた議論に基づく合理的な判断を求めてまいりました。京都府による当事業の事前評価(平成27年6月9日)では、新しい公共事業の進め方としてデザインビルド方式、すなわち実施設計と建設工事を併走で実施する計画が発表され、本学会はこれに対し、生物多様性保全の国際的な合意事項である「予防原則」から大きく外れる、建設ありきの短兵急な進め方であって、根本的に問題があると意見いたしました。その後、昨年(平成28年)4月28日に出された「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮称)に係る環境保全専門家会議」(以下、専門家会議)の座長による提言(以下、座長提言)において、まさに本計画の時間枠ではアユモドキ等の保全が保証できないことが明言され、同年8月24日に京都府知事と亀岡市長は座長提言を受け入れる形で、計画地を「亀岡駅北土地区画整理事業地」(以下、駅北地区)に変更することを発表しました。
 その後、駅北地区での建設に関して、本年(平成29年)1月末から2月初旬の短期間のうちに、専門家会議と京都府公共事業評価に係る第三者委員会(以下、第三者委員会)が立て続けに行われました。これに際しては、地下水を通じたアユモドキ等への影響に関する検討が明らかに不十分であること、アユモドキ等の保全計画に具体性がないこと、影響モニタリングの実施内容に具体性がなく実効性に疑いがあること、またわずかな検討日程の中で計画を進めようとする行政手続などに対して、多くの厳しい批判がなされました。しかしながら、着工までに専門家会議がさらなる検討・評価を行うことを前提に事業計画は認められることとなりました。

 このたび、5月17日の専門家会議での了承を経て、第三者委員会で本事業の事前評価を行う段階に至りました。事業評価調書や報道、また関係者からの聞き取りによりますと、専門家会議による着工の了承は、下記の6点を評価、あるいは前提としたものです。
  • 地下水動態等、環境リスクに対して現時点で可能な事前評価を行い、その範囲において影響が軽微と判断されたこと
  • 環境影響を低減させるための配慮・工夫が施された工法を採用する計画であること
  • 予防的保全対策として、工事前を含め、生息環境の改善を進める計画であること
  • モニタリング計画を具体化、強化していること
  • 着工後、影響モニタリングにより水質等に異変を感知した場合には、工事を中断して原因を究明し、適切な対策を講じる計画であること
  • 元の計画地を含む、より広域にわたる保全対策を、京都府と亀岡市が専門家等の助言を受けながら連携して責任をもって進めること。

 以上を踏まえ、日本魚類学会としては下記のとおり意見を申し上げる次第です。京都府、亀岡市、また第三者委員会におかれましては、その趣意をご理解いただき、今後のアユモドキ等貴重な生物を含む湿地生態系の保全が確実なものとなりますよう、本事業の内容や進め方について、十分にご検討いただけますよう、心よりお願い申し上げます。

1.
 現時点でアユモドキの保全が保証されたわけではなく、保全計画全体の着実で早急な実現が必須です。
 スタジアム用地の駅北地区への計画変更とアユモドキ等に対する総合的な保全対策案は、アユモドキ等の保全の観点において肯定的に評価できます。しかし、現時点でアユモドキ等を保全できる見込みが立ったわけでは決してありません。調書にあるとおり、アユモドキ等への影響が軽微であるという評価は、現時点で調べ得た検討項目に限定されたものであり、アユモドキの生態や河川環境に関する知見が不十分であるために多くの懸念が残されている状況は、従来とほとんど変わりがありません。
 そのため、もし着工を前提とする場合には、調書に盛り込まれた上記の保全計画のすべてが着実に、また早急に実現されることが必須であり、またそれが着工の必要条件となります。特に、広域的な保全対策(調書p.71)が確実に実現されていくことが鍵となります。
 また「アユモドキ等の自然環境と共生するスタジアム」として、工事中の対策のみならず、スタジアムの完成・供用後の保全への積極的貢献に関して、より具体的に実効性の高い計画を策定していくことが必要だと考えます。
2.
 今後の駅北地区や旧予定地を含む広域の保全計画の策定や実施体制の構築が必要です。 アユモドキの生息地に隣接し、またその潜在的な生息環境でもある現行計画地でスタジアムを含む大規模な開発を行うことに対して、調書ではアユモドキの生息環境の保全と地域の保全活動の維持・発展につながりうることをもって積極的な位置づけを行っています。このことを現実のものとするためには、スタジアムを含む駅北地区の開発による悪影響を最大限に低減することはもちろん、上記のように広域的な保全対策を確実に進めることが必須となります。
 今後長期にわたり、旧建設予定地を含む広範囲にわたる水田地域、現在の主要な生息・繁殖地である支流、越冬地を含む本流、および近隣支流において、環境の維持・改善や生息地の拡大を進めていくためには、現在の専門家会議を含め、より広く専門家、地元住民、市民、自然保護団体等の意見を取り入れることが必須です。またそれを実現していくためには、市、府、国行政の強い連携のもとでの実施体制の構築が不可欠です。
 本事業計画に含まれるロードマップを確実に実現するために、今後、より具体的で着実な議論と体制づくりを進め、真に自然環境と共生する公共施設の整備やまちづくりが実現されて行くことを強く望みます。

以上

<本件に関する問い合わせ先>
日本魚類学会 自然保護委員会
委員長 森 誠一
岐阜経済大学地域連携推進センター
電子メール:smori@gifu-keizai.ac.jp