日本魚類学会自然保護委員会 日本魚類学会トップページ
自然保護委員会の概要  
ガイドライン  
モラル  
シンポジウム  
提案書・意見書  
資料・書籍  
魚雑掲載記事  
京都府亀岡市のアユモドキ生息地における大規模開発に関する意見
 
 
平成25年5月29日
京都府知事  山田 啓二 殿
亀岡市長   栗山 正隆 殿
日本魚類学会 会長 木村 清志

 平成24年12月末に京都府が発表した亀岡市における大規模スポーツ施設の建設計画について,日本魚類学会は,計画地が,国の天然記念物で「種の保存法」指定種である絶滅危惧IA類の淡水魚アユモドキの生息場所であることから,平成25年3月12日に,その妥当性を再検討いただくよう要請し,これまでの検討経緯と今後の対応計画について質問いたしました。それに対して,京都府知事および亀岡市長から4月12日付でご回答いただきました。まずは,ご回答いただきましたことにつき,お礼申し上げます。
 しかしながら,ご回答の内容から,私どもは,今回のスポーツ施設建設がもたらすアユモドキ個体群絶滅の懸念を深めましたので,再度,当地における本計画の妥当性について,科学的調査と合理的判断に基づき,ゼロベースから再検討いただくことを強く求めます。

 ご回答において,京都府知事および亀岡市長(以下,京都府,亀岡市と記します)は,建設予定地が近畿地方に残る唯一のアユモドキの繁殖・初期生息場所であることを認識し,これまでその保全を地域住民や専門家等とともに積極的に推し進めてきたことを述べています。このことは,当学会の複数の会員がそれに携わってきていることから,紛れもない事実であり,府・市のこれまでの取り組みを高く評価し,深く敬意を表するものです。
 しかしながら,ご回答にありますように,今回のスポーツ施設の建設場所の決定過程において,施設建設とアユモドキ等野生生物の共存の可否に関する調査・検討は行われていません。亀岡市が掲げる「共生ゾーン」は,平成21年3月に策定された「アユモドキ生息環境保全回復研究会」による提言書における将来的構想であり,生息地の急激な大規模改変を前提とした具体的な対策内容ではありません。しかし,京都府は,亀岡市による「自然と共生した整備が可能である」という科学的根拠に乏しい提案内容について,なんら検討することなく,当地を選定したと見受けられます。
 京都府および亀岡市は,アユモドキの保全とスポーツ施設の建設の両立を図るため,各分野の学識経験者等で構成する専門家会議を設け,「できるだけ環境に影響の少ない工法」,「自然環境に配慮した工法」の検討とそのための調査を行う計画であるとしています。本来それらは,国の環境影響評価法や京都府の定める公共事業行動計画等の精神に則り,建設を決定する前に行われるべきものです。また,アユモドキの危機的な生息状況に鑑み,建設の影響が最小化されるのみならず,現状と同等,またはそれ以上の生息環境を創成することが求められます。そして,それらが成し得ない場合,開発行為は回避されるべきですが,残念ながら,京都府および亀岡市からそのような可能性を考慮した様子は見受けられません。

 以上を踏まえ,今後の亀岡市のアユモドキ等の保全対策について,下記のとおり提案し,また要請いたします。貴職におかれましては,アユモドキ等野生生物およびその生息環境が,市民,府民,また国民のかけがえのない財産であることを再認識いただくとともに,一般に複雑で固有な生態・生活史をもつ希少生物の保全が短期間で容易に成し得ないことをまずご理解いただきたく,強くお願い申し上げます。
  1. 適切な目標設定 アユモドキ等の保全対策を,「共生ゾーン」の設置等による建設影響の最小化や低減という目標に決して歪小化することなく,確実なノーネットロス,つまり対策効果が影響と等しいか,それを上回ることを目標とすべきです。そのためには,対策の範囲を建設用地内(共生ゾーン計画地を含む)に限定することなく,アユモドキ等の個体群の存続に必要とされる地理範囲を明らかにし,その環境保全のための明確な意思表示と政策を実施してください。
  2. 専門家会議の公開性の確保 環境保全対策における重要な役割を担う専門家会議について,その検討方針や検討結果の施策への反映方法を事前に明確にし,十分かつ速やかにそれらを公表してください。また調査結果や検討内容,および意思決定過程について,第三者が検証可能な形で速やかに公開してください。なお,専門家会議が,科学的な蓋然性をもってアユモドキ等野生生物の将来にわたる存続を保証できない場合には,今回の建設計画が社会的に認められないことを認識すべきです。
  3. 適切な調査検討期間 一般に野生生物の代替生息地の創成は容易ではなく,十分な基礎調査と試行錯誤を通じた順応的管理が必要とされます。わずか2年間の調査検討期間ののち,平成27年度にも着工し,平成28年度に完成を目指すという事業計画は,現時点ですでに不可能であることが明白です。まず適切な調査検討期間を設定し直すことが必要です。
  4. 保全を前進させる総合的施策 スポーツ施設の建設の有無にかかわらず,琵琶湖・淀川水系のアユモドキの絶滅の危険性は大変高まっています。京都府および亀岡市におかれましては,施設建設への対策のみに保全努力を集中させることなく,従来からの保全活動や調査を発展的に継続させ,保津川流域のアユモドキ個体群の存続性を着実に高める施策を行ってください。
  5. 地域社会との真の共生 アユモドキを含む貴重な生物多様性を育む水田・湿地生態系は,国民のかけがえのない財産であり,それを守り,維持してきた地域社会・住民の役割に対して,行政は最大限の理解と謝意のもと,必要な援助を行うべきだと考えます。まして地域社会に不当な負担をかけるべきではありません。今回の妥当性に欠く,拙速なスポーツ施設の建設決定の不備について,京都府と亀岡市は地域に対して十分な説明を行い,そのうえで,関係する国,京都府,亀岡市の行政,地域住民,一般市民,専門家が,広く公平に議論し,今後の賢明な土地・環境利用を推し進めていくことを強く求めます。
なお,本意見の全文を当学会ウェブページで公開するとともに,今後も広く意見発信を行っていく予定であることを申し添えます。

<本件に関する問い合わせ先>
日本魚類学会 自然保護委員会
委員長 細谷和海
〒631-8505 奈良市中町3327-204
近畿大学農学部 環境管理学科 水圏生態学研究室
Tel:0742-43-6195/Fax:0742-43-1593